tear drop

え?

前にも言ったが、京子はいわゆるお嬢様。
父は企業の社長だった。
温室育ちの京子にとって、
男の子とメールするなんてもちろん初めて。
ましてや社長の娘と海の家の従業員。
まったく別の世界に生活する2人。
最初はぎこちないメールのやりとりで・・・
「えっと・・・今日は・・・いや違うっ
さっきもお礼のメール送ったじゃん!
も~なんて送ればいいんだろう・・・。」
携帯を片手に悪戦苦闘する京子。
それでもメールのやりとりの中で、京子は自分の
気持ちの高鳴りに気づかずにはいられなかった。
助けてくれたあの時の事がずっと頭の中を駆け巡っている。
京子は初めて感じるこの気持ちに戸惑っていた。
「そうだ・・・お礼!お礼しなくちゃ。」
京子はふと思い出したように台所に向かった。
京子の趣味はお菓子作り。
広いダイニングキッチンに材料の
すべてそろっている冷蔵庫、そして道具。
『小さい頃はよく、お母さんとお菓子作りしたな・・』
この台所に立ってお菓子を作ると、
いつも母との懐かしい思い出がよみがえってくる
そして母が今もそこにいて、
一緒に料理しているようにさえ感じる・・・
母が死んだ後もなおお菓子作りを続けている一番の理由だった。
「なにがいいかなぁ~」
レシピ本をパラパラめくりながら考えていると
ふとある文字に目が止まった。
「tear drop」
上に涙の滴をイメージした砂糖菓子ののった、
かわいらしいケーキ。
「これにしよう!」
さっそく取りかかる。
作りながら考えるのは航太の事ばかり・・・
ケーキが出来上がるにつれ
京子の気持ちも加速していくのだった。
ー数時間後
「・・・よし!」
出来上がったケーキをながめ満足そうにほほえむ。
そして綺麗にラッピングしたケーキを片手に、
航太に教えてもらった住所の場所へと向かう。
「も~どこよここ・・・」
普段学校以外で長い距離を歩いたりしない京子。
出かける時はだいたい車が出る。
それでも京子は歩いた。
ただ彼に会いたくて・・・
お礼がしたくて・・・
そんな純粋な気持ちで歩き続けた。
「あった・・・やっとついたぁ・・・」
息を切らしながらもインターホンを押す。
「はい。」
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