精神の崩壊
草野静恵
 「俺は、あんたなんか愛していない……」
 「だから、あんたとは一緒に暮らせない」

 正春がそう言うと、静恵はケラケラと笑い出した。

 〈アハハハハハハハハッ〉
 〈イヒヒヒヒヒッ〉
 〈それでも私は貴方を愛してるのよ……心からね……イヒヒッ〉

 (完全にいかれてる……)

 正春はそう思った。

 〈ララララララッ……〉

 そして、静恵は歌いだしクルクルと回り踊りながら言った。

 〈一生離さないわよ正春〉
 〈ウフフフッ……ウフフフフッ〉

 そして、近付いて来て頬にキスをする。

 「止めろ、なにをするんだ」

 必死に抵抗を試みるが、身体を縛られている為どうする事も出来ない。

 〈アハハハハハッ……正春〉
 〈そんなに照れなくて良いのよ、可愛い人ウフフフッ〉
 〈素直に為って正春〉

 静恵は、そう言って不気味な笑みを浮かべ正春を見下ろす。

 〈私は、解ってるのよ貴方が私の事を愛してるって……〉
 〈ちゃんと知ってるの〉
 〈だから意地を張らないで〉

 耳元で静恵がそう囁き、その息が耳を撫でる。

 体中に鳥肌が立ち、寒気が襲って来る。

 身体がひとりでにガタガタと震え出し、強張って行く。
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