精神の崩壊
 声を出そうにも恐怖感と震えで声が出ない。

 (今此処に殺人鬼が居る……)

 (頭のいかれた殺人鬼が……)

 静恵は、千春の元へ行き千春の頭を撫でながら言っている。

 〈これからは、私が貴女のお母さんよ千春……〉
 〈どう、嬉しい千春?ウフフッ〉
 〈そう、嬉しいのね……〉
 〈いい子ねぇっ千春〉

 静恵は、怯える千春にそう言って微笑んでいる。

 「や……止めろ、千春に手を出すな、止めてくれ………」

 正春は、勇気を出して震えた声で静恵に言った。

 〈あら、妬いてるの正春〉
 〈大丈夫よ、ちゃんと構って上げるから……ウフフフッ………〉

 静恵は、そう言って近付いて来て体中を撫で回す。

 そして、正春の身体を抱き起こし、ギュッと抱きしめる。

 〈私の愛しい人……〉
 〈もう離さない〉
 〈私だけの人……正春……〉
 〈千春と正春、そして私の3人でこれから暮らすのよ……〉
 〈素敵だと思わない?……〉

 静恵は、幸せを夢見る様な妄想顔で話をしている。

 血の気の引く様な恐怖感が津波の様に押し寄せ、正春を呑み込み絶望の淵へと誘って行く。

 (怖い、怖い、怖い……)

 (逃げたい、逃げたい……)

 それらの言葉が、正春の頭を支配して行く。
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