精神の崩壊
 正春が、ソファーに座りテレビを見ていると食品偽造事件のニース速報が入った。
 
 ニースによると、社長の杉山太郎さんが首を吊り死んでいるのが見付かったとの事だ。
 
 「俺も死にたい気分だ……」
 
 正春はそうボソリと言った。
 
 しかし、正春はそれよりも、瀬川静の事が気に為っていた。
 
 正春は静と一緒に仕事をした事があるのだ。
 
 正春が絵を描き、静がそれを元に特殊メイクをする。
 
 そんな仕事だ。
 
 また、正春は静にいろいろお世話に為っていた。
 
 ちょうど一緒に仕事をしている頃、離婚をして間もない事もあり、正春は静に男でも出来る簡単な料理を教えて貰ったり、千春の面倒を見て貰ったりした事があるのだ。
 
 その仕事が終わる迄の、わずかな間とはいえ、お世話に為った女性が誘拐されたと為れば、心配せずにはおれない。
 
 「無事なら良いけどなっ」
 
 正春がそう思っている中、また電話が鳴った。
 
 ピルルルルルッ……ピルルルルルッ……
 
 (また悪戯電話かな……)
 
 正春がそう思って電話に出ると、それはもっと最悪な電話だった。
 
 その電話は、警察からで、また正春の絵を題材にした事件が起こったので、身辺に十分気をつける様にとの事だった。
< 32 / 112 >

この作品をシェア

pagetop