精神の崩壊
 女は、ニヤニヤとしながら話しを続ける。

 〈貴方が絵を描きこの引き出しに絵を入れる……〉
 〈そして、私がその絵を受け取り引き替えに食事や必要な物を渡すの……お解り!?〉
 「何故こんな事をする!!?」
 〈貴方の絵を愛してるから、貴方の絵を私だけの物にしたいからよ……ウフフッ〉

 女は、そう言って不気味に笑っている。

 この時正春は思った。

 こいつは草野静恵じゃない、静恵は私と千春の為にと言い犯罪を犯している。

 その静恵が千春を殺すだの、ただ絵を描きよこせだのと言う筈が無い、いったいこの女は何者なのだろうか?……。

 「絵を描き渡せばそれで良いんだな……」
 〈そうよ、私が欲しいのは貴方の絵であり、貴方の娘さんにも貴方自身にも興味ないわ〉
 〈さぁ、解ったら描くのよ〉

 女は、そう言って部屋を離れて行った。

 「お父さん、怖いよ……」
 「大丈夫だよ千春、お父さんが絵を描きさえすればあの女は何もしない筈だから……」

 また私のせいで千春をこんな目に合わせてしまった………。

 私があの時もっと気をつけてさえいればこんな事には……。

 正春の心に深い後悔の念が込み上げて来る。

 取り敢えずは絵だ、絵を描かなければいけない。
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