精神の崩壊
 正春は、アトリエへ向かい早速絵を描く準備に取り掛かったが、とても絵の構成等練っている精神的余裕は無く何を書いて良いのか浮かんで来ない、浮かんで来るのはもし絵が描けなかったら何をされるか解らないと言う恐怖感だけだ。

 考えても考えても何も浮かんで来ないまま、ただ時間だけが過ぎて行き結局何も描けぬまま夕暮れ時を迎えた。

そして夜7時を迎えた頃、あの女がカツカツと足音を響かせながらやって来て言った。

 〈絵は描けたの?〉
 〈さぁ、絵を見せて!?〉

 正春は、女が立つ引き出しの前へ行き言った。

 「まだ描けてない……」
 〈そう、解ったわ……〉

 女は、そう言って去って行き暫くして戻って来た。

 〈これが今日の晩御飯よ〉

 そう言って、女はお握り二つと水の入ったグラスを二つ引き出しに入れて渡して来た。

 「これだけなのか!?……」

 正春がそう聞くと女はこう言ってた。

 〈ちゃんと絵が描ければもっと上げるわよ……ウフフフッ〉
 〈食事は、絵の出来栄えによって上げるわ、だから頑張って描いてね……〉

 それだけ言うと女は再び去って行った。

 「畜生、なんて女なんだ!?」

 正春はそうボソリと呟いた。
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