精神の崩壊
 正春は、水だけ貰いお握りは二つ共千春に渡した。

 「千春が食べなさい」
 「お父さんは良いの?」
 「お父さんは大丈夫だから」
 「うん……」

 そう言って申し訳なさそうにお握りを食べる千春。

 千春だけにはひもじい思いをさせたくない……。

 その為には、とにかく絵を描かなければ為らない。

 絵は描かなければ為らないがイメージが全然湧かず、正春は悩んでいた。

 そして、正春は悩んだ結果千春がサワガニを捕まえようとしていたシーンを思い出しながら描く事にした。

 そして、正春は必死に筆を走らせ描いて行く。

 「お父さん、私ご飯無くても良いから無理しないでね……」

 正春は、千春のその優しい言葉に思わず涙する。

 「千春、ごめんよ……」

 正春は千春の優しさに支えられ、力を貰い千春への思いを込めて描いて行く。

 千春は本当に優しい良い子に育ってくれた。

 今はそれだけが正春の救いであり、支えだった。


 そして、正春と千春が拉致監禁を受けている中、外ではまた事件が起ころうとしていた。

 白昼の街中で、捜査員達が汗を流し必死に捜査を続けている中、ある捜査員にそっと忍び寄る影があった。
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