吸血鬼は恋をした。
マリは懸命に蒸しタオルで拭くが、彼の身体は動いても、目を覚ます様子はない。

そのことに、マリは少し不安になってくる。

「大丈夫…ちゃんと、息してるしっ」

大丈夫だという言葉を、マリは自分に言い聞かせた。

身体を一通り拭き終わると、父のシャツをなんとかして着させる。
下も拭いたりした方がいいんだろうが…彼もそこまではされたくないかもしれない。

そういうことで、ドライヤーや電気ストーブで乾かすことに努める。

「あっ…眼鏡」

彼の眼鏡はぶつかった事で少しヒビが入り、どこか曲がっている感じもした。
危ないので勝手に外し、汗なのか…雨なのか…わからぬその顔を、一通り蒸しタオルで拭いた。

ピクンッ…

目元に差し掛かると、彼は身体を一瞬震わせた。

「良かったっ!目…覚めたかな!?」

マリがホッとして顔を覗かせると、彼は

「うっ…」

という呻き声と共に目を開けた。
が、その瞬間、目を瞑り手を横に大きく振る。

「えっ!?」

マリは彼の行動に驚き後ずさりしながらも

「な…に?」

と、問い掛けると彼は小さく呟いた。

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