隣人の狂気
カーナビを無事セットし終えて早速出発。

順調に車を走らせる事およそ3時間後、かつてお父さんと住んでいた海沿いの街に到着した。

車の窓からは田畑の飼料の匂いに混じって潮の匂いが入って来る。

変わってしまった景色よりもその匂いが久しぶりの帰郷を実感させてくれる。

さらに国道を走ると懐かしい信号機が見えて来た。

運よく赤信号で止まれてよく見る事が出来たが、そこには見るべき物は何も無かった。

ワタシとお父さんの家は取り壊され更地にされ放置され、今はまばらに草の生える空き地になっていた。

チャチな信号はすぐに変わり、走り出したワタシはあの日対向車線に止まっていた狂気の視線の思い出とすれ違う。

心の奥で『モゾリ』と何かがうごめくのを感じた。
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