Garden4
クローゼット
真っ黒だった。
上から下まで、真っ黒だった。
クローゼットの中は全部、真っ黒だった。
『黒が好きになった人は、人に秘密にしておきたいことがあるのね、きっと』
そう、あたしは隠していた。
好きになってはいけない人。
分かっていても、心がひかれて行った。
あの頃を思い出すと、胸が苦しくなる。
「ねぇ、せんせー?あたしのこと好き?」
寝入る直前の子供が、母親にすがるように。
その手にしがみつくあたしを笑って、彼は言った。
「好きだよ。舞、おいで」
あたしを引き寄せて、彼はあたしの頭を撫でる。
「聞こえる?俺の心臓の音。
どきどきしてる」
彼は優しかった。
優しい繭の中に、あたしは包み込まれていた。
それを、愛情だと信じて疑わなかった。
一生に一度だけ、この人のためなら死のうと思った。
その気持ちが、何よりも強い愛情だと信じていた。