Garden4
「舞は、柔らかくて気持ちいいね。
ずっと触っていたくなる」
心地のいい音しか聞こえてこない。
彼の発する音。
繭の中、守られていたのはあたしだけじゃない。
「舞、舞、ここにおいで」
抱き締める腕に、他のすべてを忘れていく。
怒りも、悲しみも、他の誰かに与えられた全て。
時間も、体さえ、隔たりになるものは全て。
『どっぷり浸かっていたのね』
夢のような時間だった。
でもそれは、本当に夢。
不快なものに目隠しをして。
あたしたちはただ、繭から出ようとしなかった。
「…せんせー、あたし。いつかせんせーの赤ちゃんがほしいな」
優しい彼の顔が、一瞬凍り付いた。
あたしの目を、彼は見なかった。
だけど、あたしの髪を撫でて、彼はうなずいた。
繭を壊す勇気は、彼にはなかった。
大人になりゆくあたしが伸ばしかけた羽を彼は見ないフリをした。
繭の外の世界に気づき始めたあたしに、目隠しをしようとした。
そのことに、あたしは気付いてしまった。
彼の優しさは、あたしのためでなく。
彼を守るためにあった。
そして夢の終わりは、あっけなく訪れた。