愛して 私の俺様執事様!!~執事様は秘密がお好き~
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「はぁ……」
唯一、気が抜ける場所がここっていうのがね。
なんだか本当に辛いとこ。
どうしてもトイレの扉の向こうで待機すると言い張る香椎くんを、それでもどうにか説得して私は今やっと一人の時間を手にしている。
完全個室。
おそらく香椎くんは女子トイレの前で誰も入れないように、殺人級の笑顔を振りまき中だろうけど。
「秘宝……かぁ……」
なんだろうなぁ。
なんだろうなぁ。
そればっかりずっと考えすぎて、はっきり言って授業も何も耳にも頭にも入って来ない。
別にトイレでなにをしたいわけじゃなく。
とりあえず、一人になりたいからここにいるんだけど。
「ヒントでもあればなぁ……秘宝っていうくらいだから、宝石とか?」
綾渡家に伝わる宝石の話なんてのは聞いたことがない。
大体、そういうのは成人したときとかに貰うってのが一般的な習わしな気もするんだけど。
「綾渡に伝わるもの? 伝わる……伝わるッ!?」
思い当たるものが一つだけあったことに今気づく。
でも……それが秘宝なんていう大層なものとはどうやっても思えない。
ゆっくりと。
自分の首にぶら下がっているものを見る。
「確かに大切なものって聞かされてるけどね」
そっとそれに触れて、その感触を確かめる。