愛して 私の俺様執事様!!~執事様は秘密がお好き~

その後ですぐに香椎くんは真顔に戻る。

香椎くんの手がそっと私の頬を包み、その瞳が私の瞳を捉える。


「すべて決着がついたら、未来(さき)の話をさせてほしい」

「うん……」


香椎くんの瞳が揺れる。

その揺らめきに胸がトクンと小さく声を上げる。

なんだか切なくて、なんとも言えなくなって。

私は思わず目を伏せてしまった。


「ごめん」


そう言ったのは香椎くんだった。

そしてゆっくりと香椎くんの熱い手が私の頬から離れて行った。


その『ごめん』は小さくて。

本当に消えいるほどに小さくて。

香椎くんがどうして謝ったのか。

どうして今、そう言うのか。

それが分からなくて。

分かりたくなくて。

すごく、すごく胸がキュッとなる。


まるで別れの言葉みたいに聞こえて。

こうしていられるのがもう少しだけみたいに聞こえて。


ううん。

きっと全部終わったら、香椎くんとはいられないんだと思う。


だから『ごめん』っていうその一言が胸の奥底に突き刺さる。


「さぁ、行こう」


そっと背中を押され、私たちは九条の邸宅を後にする。


彼の隣に座りながら……私はもう少しだけ。


もう少しだけは体温を感じられるこの距離にいさせてほしいと。


そう願わずにはいられなかった。
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