愛して 私の俺様執事様!!~執事様は秘密がお好き~
「お嬢様、お支度のほうはもうよろしいのですか?」
小さいころから家に使えているメイド長の雪路さんにそう呼びかけられて、私はゆっくりと握っていたブラシをドレッサーの前に戻した。
「ええ、もういいわ」
そう答え、ゆっくりと立ち上がる。
ベッドメイキングを終えた雪路さんが私に駆け寄り、衣服を整えてくれる。
「おさみしゅうございます」
私の服を整えながら、伏し目がちに彼女はそう言った。
そんな彼女に私は微笑み返しながら「大げさね」と答えた。
「でも……なにもこんなに急に留学をお決めにならなくてもよろしかったのでは?
旦那様もきっと私どもと同じ気持ちでいらっしゃると思いますよ」
「そうね。でも、私、やりたいことがいっぱいあるの」
あの騒動から3か月。
あれから父といろんな話をした。
母の亡くなった経緯や、祖母のこと。
紫丞のおばあさんのことや香椎くんのこと。
それを踏まえたうえで私が決めたのは、この家を出ることだった。
母の死の真相はそれは壮絶で、聞いた後は食欲も気力も失せるほどだった。
今だって私はその話をきちんと言葉にはできないでいる。
消化できたわけではなく、事実を受け止めるだけしかできていない。
そうなることが分かっていたからこそ、伏せていたのだと――話をしながら泣いた父を思うだけで、何度も泣きそうになった。