愛して 私の俺様執事様!!~執事様は秘密がお好き~
彼女の気持ちが落ち着くのを待ってから、私は彼女の手を離した。
雪路さんは涙を拭い「まいりましょう」と言った。
「うん……」
小さく頷いて、先に出ていく雪路さんの後をほんの少し遅れて追う。
部屋を出る直前に不意に寂しさがこみ上げて立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
思い出が詰まった部屋。
香椎くんがよく座っていたベッドサイドの小さな椅子。
香椎くんが髪を切ってくれたドレッサー。
香椎くんが立っていた窓辺。
初めはなんて男だって思った。
女子の部屋に堂々と居座って、早く追い出してやろうと思ったことも一度や二度じゃなかった。
なのに……いつの間にか傍にいてくれることが心地よくて。
傍にいないと不安で。
でも傍にいたらいたでドキドキして。
たった3か月前のこと。
執事だったのもほんのわずかな期間だったはずなのに。
部屋の中に彼の幻が棲みついて見えるほど、大事なものになっていた。
それでも――
新しいものも。
古いものも。
全部、全部ここに置いて、今日から新しいスタートなんだと。
振り切るように私は扉の外へ出て、静かに部屋の扉を閉めた。