聖霊の宴
全く指ひとつ動かすことなくグレイシアはマリアの足元から鋭利な氷の刃を生み出す。
マリアはそれを右斜め前方に回避する。
続く吹雪がマリアとシルクとを分かち、更にお互いを視認できない目隠しとした。
この時点でシルクには選択肢が二つしかなかった。
一つはマリアの援護をする為に吹雪を突破すること。
もう一つもやはり目的は同じなのだが、グレイシアに突撃し確固撃破を狙うこと。
シルクは即断で後者を選択する。
「タラリア!!」
一蹴にして千里を駆ける黄金の靴。
刹那にグレイシアの眼前へと迫る。
「捕らえろ『光縛』!」
大天使の羽衣がグレイシアを巻き込み捕らえる。
そのグレイシアからは魔力どころか体温すら感じ取れない。
「これは、氷像の変わり身!?そんな、いつの間に!!」
シルクの選択は間違っていた。
そしてその選択をすることにグレイシアは確信していたのだ。
シルクは戦士としての気構えに足りない部分がある。
これは大陸王としてはそれほどまでに必要な素養とは言えないのだが。
しかし、甘さとも言えるシルクの優しさは闘いにおいては負の要因になることが多々ある。
今回は弱肉強食の世界でその超絶な魔力によって大陸王となったグレイシアとの闘いでる。
その気持ちが裏目に出ることは自明の理であった。
グレイシアは余裕の笑みと、強者の眼で以て一人になったマリアの前に対峙していた。
「ふふ、本当に馬鹿な坊やね」