聖霊の宴
託されし希望
溢れだした魔力が吹雪を切り裂く。
グレイシアは予想を越えたマリアの力に初めて一歩後退した。
「これが私のオーパーツ『ロッド・オブ・バミューダ』よ」
溢れだしていた水分がいつの間にか消えていた。
グレイシアはその異様なまでの静けさに警戒心を強めている。
「得たいの知れないオーパーツだこと。
でもね、その杖の能力は分からなくても近づかなければ良いだけのことよ。シヴァ!」
瞬時に凍てついた氷柱が打ち出される。
壁すらも貫通するであろう威力で放たれた氷柱がマリアの手前2メートル程で消える。
「えっ!?」
その一瞬の出来事にグレイシアは驚きの声をあげた。
それもそのはずである。
マリアは氷柱を砕いたのでもなく、魔術で消滅させたわけでもなく、ただ氷柱がマリアに近づいた途端に消えた。
マリアに不振な素振りはなかった。ただ氷柱が消えたのだ。
「あんたいったい何をしたの?」
マリアは挑発するかのように笑った。
それを見た、プライドの高いグレイシアが平常心でいられるはずもなかった。
グレイシアは魔力を溜め込む。
その力で大気が震え、はるか遠くの雪原で雪崩が起きた。
大重量の雪が崩れて滑降する音が小さく聞こえる。
「私の中でも最上級の魔術よ。消え失せなさい『ディザイア・凍結する命の灯火』」
マイナス300℃を越える魔界の吹雪が巻き起こり、雪原にあった全ての物の一切を細胞レベルで氷付けにし、粉々に砕く。
塵にすらならずに結晶となって万象が消え失せるその光景は恐ろしくも神々しいほどの無慈悲さだった。
「生意気な小娘め、その減らす口とおとぎ話の様な矮小な希望と共に消えなさい」
魔界の吹雪はグレイシアの叫びに呼応するかのように、マリアの逃げる隙をわずかすらも作ることなく、無情に飲み込んだ。