聖霊の宴

「――!!」

次いだ光の攻撃がまたもグレイシアの服をかすめた。

「どういうこと?今の攻撃明らかに今までで一番早かった」

グレイシアの持つ力の中で最も驚異なのはその強大な魔力ではない。

彼女の最大の武器は並外れた洞察力にあった。

グレイシアは戦闘中ある一定の距離を保つ。

相手の攻撃を躱し自らの攻撃を当てることができる距離。それをボルトで固定したかのように保ち続けることができることが彼女を大陸王たらしめる所以であった。

「くそ、本当に読めないヤツねシルク・スカーレット」

その並外れた洞察力は現時点での相手の動きを観るだけでなく、その戦いの最中に変化する相手の心理状態や成長速度までをも視野に入れている。

しかしシルクはグレイシアの服をかすめた。

「『星霜の槍』!!」

無数の光の槍が打ち放たれる。

「なっ!!」

更に速度を増したシルクの攻撃にグレイシアは初めて表情を強ばらせる。

氷の壁で槍を防ぎ、壁を突破したそれを軽やかに躱す。

「タラリア!!」

一瞬にして眼前に現れるシルク。

グレイシアは反応がわずかに遅れる。

「とらえろ『光縛』」

光り輝く大天使の羽衣がグレイシアを包み込み捕縛した。

「甘いわよ」

「なんだって!?」

グレイシアは魔力を解き放ち大天使の羽衣をいとも容易く打ち砕いてしまった。

余裕を持って戦っているかのように見えるグレイシアだったが、焦りの色を見せ始めていた。

「今の槍の攻撃、タラリアでの高速移動も全て私の計算の内だった。
迎撃する準備もできていたのにできなかった。

不覚にもこの私が一瞬でも捕らえられるなんて」

グレイシアは考えを新たにする。

「私はシルク・スカーレットと言う男を見誤っていた。
彼は不完全で未完成。歴代の大陸王には遠く及ばぬ弱者と決め付けていた。

だが、ここまで未完成な状態で王の座に就いた者が居ただろうか?否。
彼はこの戦いの中で恐ろしいまでの速度で成長している。この私の想像を凌駕し、あるいはこの私をも越える可能性すら・・・」

グレイシアはこれまでにない表情でシルクを見る。

その顔にはもう余裕の笑はなく、弱者を捕食する強者のほころびもない。

目の前の敵に全霊を込めて対峙する戦士の顔であった。

「シルク・スカーレット。彼は危険だ。

今止めておかなければ私が忠誠を誓ったサスケ様をもその牙をたてかねない。
元厳冬の大陸王グレイシア・ウィザードの名に懸けてやつを今ここで始末する」

張り詰める空気。

研ぎ澄まされたグレイシアの魔力に大気が震える。

「私のギフト『アイス・ドール』の本当の力を見せてあげるわ」

にやりと笑ったグレイシア。

両の手から伸びる氷の糸。おもむろに自身の体をそれで串刺しにした。

「何を、何をしているんだ――!!?」





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