聖霊の宴
「なんで?確かにアイス・ドールによって痛覚は破壊したのに」
ズキッ。ズキ。
壊死したはずの右腕から確かに感じる痛みにグレイシアは恐怖さえ覚える。
「いったい私に何をした!!」
叫んだ瞬間の前方へと向いた意識をくぐり抜け、シルクはいとも容易くグレイシアの背後を取った。
そして柔らかな光が、驚異的な反応速度で回避を試みるグレイシアの左足をかすめた。
「うがああっ」
グレイシアは突然襲ってきた左足の痛みに膝まづいた。
その激痛たるや意識を根こそぎ飛ばしてしまいそうなものだった。
薄れそうになる意識を激しい怒りと悔恨で繋ぎ留める彼女の顔は修羅のようだ。
「ふーっ。ふーっ!
貴様、この私に何をしたというのだ!!
答えろシルク・スカーレット!!」
打ち出した氷塊をシルクは光で撃ち抜く。
「・・・呪いだよ」
シルクは悲しげにそう言った。
「呪い・・・だと!?」
「そう。ただし敵にかける呪いではなく自分自身にかける呪いだけどね。
ほら、見えるかい?」
シルクはグレイシアに見えるように左足のズボンをまくり上げる。
そこにはこの戦いで傷ついたグレイシアと同じ部分に傷があった。
「『呪回』相手の傷を自らの身体に移すことで、対象を治癒する力。
君の壊死した痛覚を僕に移し、君の痛覚を再生させた。
ただしこれは魔力によるさいせいであって、君の細胞自体が蘇生したわけではないから、もう一度アイス・ドールによってその部分の痛覚を壊死させることはできない。
僕もようやく分かった。自己犠牲とは言え何故治癒の力に『呪』という言葉が使われているのか。自らを傷つけるその罪を戒めるため。だからこそこの力を天使であるミカエルが僕に授けてくれた」
近づくシルクにグレイシアは一歩退いた。
また一歩と近づく。
「来るな」
一歩、また一歩と。
「来るな、来るな、来るな!
シヴァ!!オーパーツ」
震える不安定な魔力がオーオパーツを具象しようとするが、光り輝く勾玉は儚くも崩れ去った。
「痛みの中で悔いるが良い」
シルクの光がグレイシアの全身を包み、グレイシアの痛覚が復活する。
際限無しに力をうみだしてた身体。その代償で傷ついた痛みでグレイシアは気絶した。
大気中の水分を凍らせた氷柱は残っていたが、グレイシアが魔力によって生み出した氷は霧散して消えた。
マリアの身体は解放されゆっくりと柔らかな雪に落ちた。
「ミカエル・・・」
『ええ、分かっていますよシルク。
今のあなたの力ならばそれほどの代償もないでしょう』
シルクはグレイシアの身体にそっと手をかざす。
やわらかな光が包み込み、見る見るうちにその傷を癒していった。