聖霊の宴
数刻してグレイシアが目を醒ますとそこにはマリアだけがいた。
「・・・あいつは?」
グレイシアは意識してであろうマリアと目を合わせることはない。
マリアは横たわるグレイシアを見つめながら言う。
その声色には優しさが混ざっている様にも感じる。
「シルクならもう城へと向かったわ」
「・・・そう」
グレイシアは吹雪の向こうに見える白を見ながらそう小さく呟いた。
そして表情は変えぬままに続ける。
「あんな変なヤツ見たことない」
第一の試練でブラックリストに載る犯罪者を全て殺さずに捕まえたこと。
未完成でありながら立夏の大陸王となったこと。
自らとの戦いの間に急激な進化を見せ、弱肉強食の世界で生きていたグレイシアにとって情けをかけられ傷を癒されたことは屈辱と共に不思議な胸の感覚を抱かせていた。
そしてその感覚は以前にマリアも感じていたものだった。
「ええ、私もそう思うわ」
そう言ってくすりと笑った。
グレイシアはその優しい微笑みに羨ましさを感じていた。
しかし初めてのその感情にまだ本人は自覚できていない。
「やっぱり言い替えるわ。こんな変なヤツ等見たことない」
ぶすっとしたグレイシアの幼い表情にマリアは笑った。
「ええ、そうね。やっぱり私もそう思うわ」
眩しいようなマリアの笑顔から目を逸らすようにグレイシアは遠くの空を見上げた。
真っ黒な雲が瞬く間に空に広がって言っているのが分かる。
すぐにでも猛吹雪がこの地を飲み込んでいくのだろう。
グレイシアは魔力の消耗によって重くなった身体を起こして、マリアを見つめる。
「あなたが何故あいつに付いていくのかが戦いの中で私にも少しは分かった。カリスマ性とは似つかないけれど彼にはそれに似た何か不思議なオーラがある。
でも・・・いくら彼と早春の大陸王が共闘してもサスケには勝てない」
「どういうこと?」
次のグレイシアの言葉を聞くとマリアは我武者羅に走り出していた。
ワイズはとうに城に潜入していた。シルクのタラリアを以てすれば城へは一瞬のうちに到着できる。
二人とサスケとの戦いを止める手立てなどマリアには無かったのだがそれでも彼女は一心不乱に走り続ける自らの脚を止めることができなかった。
「・・・シルク、ワイズ王ダメ。
サスケと戦ってはいけない。あのグレイシアが・・・」
波乱を告げるかのように辺りを真っ黒な雲が覆い尽くし、目の前すらも見えぬ程の猛吹雪が厳冬の大陸を飲み込んだ。
「オーパーツどころか・・・
ギフトすら使わせることなく圧倒されたなんて。
そんな化物に勝てるわけがない」