聖霊の宴

ワイズはすぐに立ち上がる。

その表情にはまだ驚きが伺える。

「・・・名折れとは言ってくれるね厳冬の大陸王よ。

よく見るがいい、痛み分けさ」

「――!!」

はらりとサスケの結わえていた髪が落ちる。

「ほう、あの刹那の中、反射のみで拙者の髪紐を切ったのか」

サスケの髪紐を切ったワイズではあったが、痛み分けというのはいささか難しい状態であった。

「シルフィード・・・『神風の舞踏』」

ワイズの奏でるフルートが全てを吹き飛ばす凶暴な風を巻き起こす。

その風は一瞬にして二人の戦っていた空間うを飲み込む。

「ほお、曲芸にしてはよく出来ている。

―――――だが、攻撃というには些か滑稽に写るな『破刃』」

上段の構えから鋭く一直線に刀が振り下ろされる。

その太刀は空気との摩擦すら超越し、無音で振り下ろされた。

ワイズの風はいとも簡単に切り崩され消滅した。

すると突然サスケの左にワイズが現れた。

神風を切り裂くため一点に意識を集中した隙にサスケの横に滑り込んだのだった。

「よい動きだ。だが届かぬ『月泪』」

サスケは緩やかに刀で弧を描き出す。

下段の構えから一周半し、切っ先が頂点にたどり着く。

数多の武芸者がその剣技の美しさに感涙を堪えきれなかったという。

その流麗な剣舞が、サスケよりも先に攻撃を仕掛けていたはずのワイズの力をかいくぐり遥か後方へと吹き飛ばした。

ワイズがその攻撃の間、視覚で認識できたのは三太刀。

迎撃によってワイズの身体に刻まれた切り傷は十四。

この時点でワイズはサスケに速力で劣ることを認めざるを得なかった。

『ワイズ・・・』

ワイズの傍らを飛ぶシルフィードも焦りを感じていた。

「ふっ、そんな顔はよしておくれ。

ただ速力で敵に遥か劣り、こちらの攻撃は届かず、相手の攻撃は現時点では回避どころか視認も難しい。それだけのことだ」

そしてワイズはすでに気づいていた。

「ま、何よりも厄介なのは彼がまだギフトすら使っていないということだけどね」



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