聖霊の宴

フレアを中心に辺りの木々が一瞬にして枯れ果てた。

本来ならば超高温の炎は目に見えぬはずだが、フレアの魔力の奔流と相まって、大気が揺れる。


『なんと禍々しき力よ。

この私の翼が軋む』

メゼシエルは漆黒の鎌を構える。

「全くサモン様の先見は恐れ入る。
やはり村人の一切を我が城へ避難させておいて良かった。

今の俺様では加減をし損ねて村ごと消滅し兼ねない」

フレアはゆっくりと左手をあげる。

そして照準をメゼシエルの翼へと合わせた。

「『鏡火』!!」

一瞬にして翼の中央が枯れ、灰となって辺りに消え散った。

『不可視の火炎放射と言ったところですかね……ならばあの手の動きに捕らえられなければ良いだけのこと』

メゼシエルはまた高速移動をする。

枯れ果てた大地に静寂が訪れる。

「無駄に足掻くな……我が炎を避ける術など存在しない。

『放炎封爆陣』!!」

フレアが左手を大地に置く。

すると辺りの大地が砂礫に還る。

「爆ぜよ!!」

フレアの一喝で炎の柱が天まで伸びる。

その大きさはフレアを中心に、メゼシエルが高速移動しているであろう地点を悠々と飲み込み、柱の直径は3キロにも及んだ。

大爆発は大地も木々も大気さえもを焦がした為に一切の音すら響かなかった。

不気味な程の無音。

死の世界とも称せるであろう。

「まだ終わりじゃないだろう?

さっさと出てきたらどうだ」

フレアは砂埃の立ち込める中でメゼシエルに向けてそう言った。

埃の中から何かが這い出る。

『ふはははは。

なんという冷たい炎か。
彼の炎はこの程度ではなかった。こんなものでは私の心は濡れないのです』

そこにはあれだけの大地を焦がす程の炎を受けて、傷一つついていないメゼシエルがいた。

それでもフレアの心には一欠片の驚きも伺えない。

『なんですその目は?』

蔑みの目線。

フレアは何も答えない。

『その苛立たしい目を止めなさい!』

初めてメゼシエルは声を荒げた。

フレアは静かに人差し指を自らの口元に置いた。

「聞こえないか?

『不知火の葬曲』が」

ふいに火種が発火する。

メゼシエルは火種を払おうとするが、それは動くごとに火力を増しメゼシエルを包み込んでいく。

「『穿進鏡火』!!」

火だるまになるメゼシエルを襲う不可視の火炎。

それがメゼシエルの胸を射ぬいた。






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