聖霊の宴

「んっ・・・」

サモンの魔力に包まれ静かに眠るリコ。

リコの周りには実に108にも及ぶ重厚な結界が施されていた。

その強度は大陸王がオーパーツを以てしても突破に数時間はかかるはずのものだった。

そんなサモンの結界が蠢く闇に侵されて呆気なく崩れ去ってしまう。

「ふーん、こいつが・・・」

散っていく結界の魔力を疎ましそうに手で払いのけソフィアが姿を現した。

『くかか・・・これだ。この器さえあれば我々はこの世界どころか天界を征服することもできる。

ようやくだ、ようやく俺様の』

舌なめずりしながらリコを見下ろすルシファー。

ソフィアはリコを担ぐ為にリコに触れる。

眩い閃光がソフィアの背後から近づくが、それは闇によって飲み込まれてしまった。

『これはこれは懐かしい。ポリネアの末裔か』

「やはりとも言うべくもないな。私は貴様がこの宴に不法に参加した瞬間からこの事態を想定していた」

サモンの手には光り輝く小さな杖が握られていた。

その杖から女性の天使が煌々とした暖かな光を放ち姿を現した。

『ほう、中立者には今回は貴様がついたのか・・・ガブリエル』

天使界ではミカエルに次ぐ二番目の地位に属する天使。

『私はあなたを蔑如しますわルシフェル。

誰よりも強く聡明であったあなたがこの様な下賎な輩に成り下がるとは』

ガブリエルの言葉にルシファーの表情が変わる。

吹き出す魔力で大地すら揺れる。

「何?こいつと戦るの?」

ソフィアもゆっくりと魔力を練りこむ。

『いーや。今はこの娘を俺様好みにする必要がある。

こいちらや他の大陸王と遊ぶのはその後だ』

『逃げるおつもりですか!?』

ルシファーは身の毛もよだつほどに残酷な笑みでガブリエルを見る。

『俺様が真の姿を取り戻したらまた遊んでやるさ。

さあ行くぞ』

「ああ」

霧のように細かい闇がリコを担いだソフィアとルシファーを包み込んでいく。

『逃がしてはなりません、サモン!!』

「分かっております。オーパーツ!――――『裁きの杖』!!」

落雷のような光が大地を打ち付ける。

サモンの家は大地ごと消滅したが、そこにソフィアの気配はもう無かった。

「逃げられてしまったか・・・」

ガブリエルは空を見上げた。

リコの狂気が世界に解放されていくのと比例するかのように、真っ黒な雲が世界を覆い尽くしていくのだった。

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