聖霊の宴
ピキッ。
「えっ!?」
突然にしてシルクの立夏の腕輪にヒビがはいった。
音を立てた部分から剥がれ落ちた欠片が地面に落ちてカランと高い音を立てた。
『はっ!
これは……』
ミカエルが外のただならぬ狂気に気づく。
その様子を察したオーディンが笑う。
『ふはは。
これは面白いことになりそうじゃな』
『オーディン。あなたはこの事態を楽しんでおられるのですか?』
世界を狂わせかねない狂気の拡散。
それをまるで喜劇でも観るかのように楽観的客観的に笑うオーディンに、ミカエルは快く思えなかった。
『何事もそれに愉悦を見出ださねば糸で吊るされた人形も同じ。
儂の享楽に貴様ごときが口を出すいわれなどない』
オーディンは自分を見つめるもう1つの視線に目をやった。
『小童が何じゃ?』
ミカエルよりも真っ直ぐに、ただ世界の安寧が為に。
シルクは戦の神であるオーディンを見つめていた。
オーディンは髭に隠された口元をわずかに弛めた。
『強欲で高慢なやつのことじゃ、器さえあれば簡単に"あの扉"を開くじゃろう。
して、ミカエルよ。
貴様、あやつが扉を開いた時どうする?』
「……あの扉?」
恐らくこの場にいるオーディンとミカエル以外には誰一人としてその意図がつかめずにいた。
ミカエルは俯く。
その表情は苦悩と迷いとが見受けられる。
シルクはそんなミカエルの表情を見るのは初めてであった。
『ミカエル。貴様分かっているはずじゃろう。
扉を開いた者に対抗しうるのは同じく扉を開いた者のみ。
ならば自ずと貴様が取るべき道は決まってくる』
『……私は』
『秤を見違うなよ』
オーディンの最後の言葉にミカエルは口を噛み締めた。