聖霊の宴
大気が揺れる。
木々がざわめき、ある地点から同心円状に広がる狂気の波が大地を這う。
その一線から一際強大な魔力を持った何かが厳冬の城へとたどり着く。
戦士の勘とも言える第六感でそこにいた全ての者が部屋の中央を向く。
不自然な闇が床から湧き出て、まるで間欠泉の如くおどろおどろしい闇を辺りに撒き散らす。
「なんだこれは・・・?」
サスケは無意識の内に自分が一歩退いていたことに気づく。
ワイズはサスケの槍に貫かれた部分を抑えてそれを見ている。
「来たな・・・・
ソフィア!!!!」
誰もが想像していなかった。
怒りに身を任せ初撃を放ったのはシルクだった。
強い光の筋が部屋を切り裂き闇に向かっていく。
不快な音を立てながら闇が伸びシルクの光を飲み込んだ。
そしてその中から不敵な笑い声が響く。
「くはははは。
所詮カスの力はカスだな」
気味が悪いほどに黒い煙がタバコからもくもくと立ち上る。
身に纏った闇を振り払いソフィアとルシファーが姿を現した。
しかし蠢く闇はまだ依然としてソフィアの下の床を這い回っていた。
「んーー?」
ソフィアは辺りを見渡す。
そしてボロボロになり死闘を終えた三人の戦士を見て鼻で笑った。
「大陸王三人が戦って一人も死んでねえのかよ。想像以上に腑抜けばっかだったようだな。
よおカス・・・何にらんでんだよ、あ?」
明らかな敵意を放ちながらシルクはソフィアを見つめていた。
ソフィアはタバコを床に捨てて黒い革靴で踏みつけて火を消した。
「文句なら戦いの中で聞いてやらあ。
・・・・ま、てめぇみたいなカスがこのオレ様と”闘い”が出来たらの話だけどなぁ!」
ソフィアが飛び出そうとした瞬間。
『止めろ』
冷たい言葉が小さく部屋を貫く。
その聞き入らなければ逃してしまいそうな声量とは裏腹に込められた強大すぎる邪悪にその場にいた誰もが身を縮めるほどだった。
『ここへ来た理由を履き違えるな。
こんなカス共はあいつらに任せておけば良い。
我々は”高みを目指す”』
その最後の一言にミカエルの表情が変わる。
『ルシフェル貴様、禁忌を犯すか!!』
『禁忌・・・?』
ルシファーはミカエルを見る。
その口調と手振りは感情の高揚と共に大きく強くなる。
『英知を得ることは悪か?力を求めることが邪であると言うか?奴らはただその高みにある自らの椅子を守るために禁忌という枷を我らに与え給うたのではないのか?
私は奴らを・・・”神”を嫌悪する!!』
ルシファーはよほど興奮していたのだろうそう言い終わると息を弾ませていた。
そして最後に静かに言う。
『見ていろ大天使よ。私は貴様が敬愛する神を地に落とし世界を暴虐と戦慄の渦中に突き落として見せよう』
ルシファーがパチンと指を鳴らすと蠢く闇がソフィアとルシファーの目の前に現れた。
二人はゆっくりとその中に入っていく。
『待ちなさいルシフェル!!』
ミカエルの怒号に反応したかのようにシルクが飛び出していた。
「言っただろうが、てめぇじゃ俺様の相手には足りねえ」
あと数センチでソフィアの服を掴めるシルクの前に闇が現れ、ソフィアとシルクとを遮断した。
『闇の配下達とせいぜい戯れるが良い』
闇の中でルシファーが振り返ると闇は霧散して消えた。
そこにはもうソフィアとルシファーの気配はなかった。