聖霊の宴
ゲセニアは笑っている。
それを見たグレイシアが不快そうに言う。
「何が可笑しいのかしら?」
ゲセニアはゆっくりとグレイシアみる。
「なに、私の力が証明されて嬉しいのだよ。グレイシア女王。
前回最強の魔力を有するとうたわれた貴様もオーパーツを使えないとはいえ、この私の絶対防御の前では手も足も出ない。
やはり私は王の器だったのだ」
その言葉を聞いたグレイシアの表情が一瞬にして変わった。
辺りに放たれる魔力はより冷たく鋭くなり、一番近くに居たマリアの集めた水分が凍り始める程の激しい冷気。
「あなたが・・・
いえ、あなた如きが王の器ですって?」
ゲセニアは手を軽く上げて言う。
「この状況下で何か異論があるかね?」
「ふっ」
グレイシアの蔑むような渇いた笑いにゲセニアの眉間に幾重もシワが寄った。
「あなたに分からせてあげるわ。
私程度の陥落した王ですら、あなたの力では遠く及ばないということを」
グレイシアの本来の魔力が開き始める。
「私は氷を操る。故にこの極寒の地では私がわざわざ氷を招来せずとも十分すぎる水分と氷とが溢れている。
だから私はここで戦う時には力を抑えているの。だって私が本当の力を出してしまったら超零度の氷が大陸を覆ってこの大陸に居る人間も含めてほとんどの生物が死滅してしまうんだもの」
グレイシアの開放した魔力が触れると氷も石もレンガも全てがアメジストの様に魅惑的な紫の光を反射する結晶へと姿を変えていく。
「マリア。これより私が魔力を封鎖するまでの間、あなたは自らの周りにバミューダの力を。決して術を解いてはいけないわよ?じゃないとあなたもアメジストの様に結晶化して崩れ落ちてしまうから」
にっこりと笑うグレイシアにマリアは全身が恐怖と悪寒に包まれていくのを感じた。
そして直ぐさま自らの周りにバミューダの結界を纏うのだった。
「100年ぶりだから手加減できないと思うわ。もしあなたが生きていられたら思い知りなさい本当の王の器をね。
シヴァ・・・魔界の氷よこの世界に転生し我が矛となれ!!『紫氷』」
瞬間。
ゲセニアを漆黒の闇が覆った。
これはゲセニアの絶対防御が有する最高の力とも言えた。
術者が命じることがなくとも、術者の身に危険が迫る時、ベルゼブブの闇が自動でゲセニアを覆い尽くし護る様になっているのだ。
漆黒の闇に包まれたゲセニアと、バミューダの結界の中にいたマリアを残して、半径5キロメートルの範囲にあったもの全てがアメジストの結晶のようになってしまった。
「恐ろしい能力だが私の絶対防御の前ではやはり無意味であったな」
闇が払われ、ゲセニアが愉快そうに笑っていた。
グレイシアの表情は微塵も変わらないままだ。
「全ての物を結晶化できても私の力は闇そのもの。何物にも干渉はできないし、無論闇には何も存在しないのだから結晶化などでき得るわけもない。
さて、私は生きていられたが、残念なことにどうやら本当の王の器というのは思い知ることができなかったようだ。すまないねグレイシア女王・・・」