聖霊の宴
超感覚に達したシルクをほぼ完璧に押さえ込んでいたクラフィティーであったが。
「・・・ぐっ、はぁはぁ」
「くははははは!
どうしたんだよオッサン!前より弱くなってんじゃねえのか?」
膝が折れ、地面に片膝をついたクラフィティーが肩で息を切らしながら愉快そうに笑うソフィアを見上げていた。
3分に満たない時間でクラフィティーは己の認識の浅はかさを知った。
「扉を開いた者の力がこれほどまでとは予想を超えていたよ」
「ん?ああ、そうか忘れてたよ。
アンタが弱くなったんじゃなくて、俺様が強くなりすぎちゃったんだっけか。悪いね」
そう言ってソフィアは鼻で笑った。
クラフィティーはゆっくりと身体を起こす。
その目はまだ寸分の輝きすらも失われてはいなかった。
「・・・なんだよその目は!?」
ソフィアの頭に血が上っていくのが周りから見ていても明らかだった。
それに呼応して障気を孕んだ魔力が膨れ上がる。
「私は考えを改めるよ」
「・・・・」
クラフィティーは確信に満ちた口調で言い放つ。
「君は彼に・・・シルクには絶対に勝てない!」
ソフィアの中で何かが切れる。
と同時に飛び出したソフィアは漆黒の波動を放ち、クラフィティーの左腕を消滅させた。
『・・・馬鹿者が』
それが幻術によって作られたクラフィティーの残像であったことに気づくのにソフィアは5秒の時間を要した。
その僅かな間にクラフィティーは2つの作業を完遂していた。
「・・・ちっ!あのオッサンこそこそと何処に隠れやがった!?」
激昂するソフィアの目の前からクラフィティーの姿が完全に消える。
辺りを見渡すソフィアがようやくそのことに気がつく。
「なんだこりゃあ・・・」
音もなく地面から這い出てくる人影。
何百、否。
千を越えるその人影の正体は紛れもなくクラフィティーであった。
「幻術?あのオッサンの魔力より俺様の魔力の方が遥かに強いのに何故!?
何をしたんだ言え!!!」
クラフィティーの完遂した作業の一つ目は己の魔力を全て捧げてソフィアをこの幻術空間に閉じ込めたこと。
そしてある物を現実世界から消滅させたこと。