聖霊の宴
ソフィアの怒鳴り声にもクラフィティーの表情は全く動かない。
そしてクラフィティーは我が儘を言う幼子をあやすかのように言う。
「君の魔力は私より遥かに強い。それはどうあっても揺らぐことのない事実だ。間違いない。
君はその魔力が故に魔術を駆使し、幻術を作り出し、自己細胞の強化まで行う。才能だけでは補いきれぬ努力の果てに掴み取った力だ。敵ながら素晴らしいと言わざるを得ない」
ゆっくりと千を越えるクラフィティーが行進をするかのように同じ速度でソフィアに近づいていく。
「私は生まれながらに魔力が脆弱であった。本来ならば私は宴に呼ばれることすら無かっただろうと、前回の宴の時にケットシーに言われてしまったくらいにね。
だから私は魔力の使い道を入念に考え遣う必要があった。脆弱な魔力ではイクラ注ぎこんだところで君のように魔力の強いものには効果がないからね。
そして私は結論を導き出した」
一斉に剣を構えるクラフィティー。
「幻術のみに魔力を特化させることで、私程度では比較にもならない強固な魔力を持つ猛者共に抗う力を得たのだ。
幸いしたのは私のもとに舞い降りた精霊は幻術と相性の良いケットシーであったこと。
あの子には感謝以外の感情が出てこない。そうだろう?あの子のおかげで私は、君という最恐の脅威をここに封殺することに成功したのだからな!!」
千のクラフィティーが次々とソフィアを串刺しにしていく。
抗いもしないソフィアの体がみるみるうちに鮮血に染まっていく。
『・・・ソフィア』
何度身体を刃が貫いただろう。
それでも攻撃の手を緩めないクラフィティーのスーツもいつの間にかソフィアの鮮血で真っ赤に染まっていた。
『お遊びはもう止めろ』
ルシファーの低い声が響く。
切りつけようと振り抜いた刃が素手で止められる。
鮮血で染められた顔を微動だにせずにソフィアは目だけをクラフィティーに向けた。
「悪いねオッサン・・・」
ようやくクラフィティーは気づくのであった。
ソフィアから吹き出した鮮血は、クラフィティーのスーツをも染め上げた真っ赤な血は全てソフィアが解き放った蠢く闇であったことに。
スーツにへばりついた闇が主の声に嬉々狂乱と蠢く。
全てのクラフィティーの動きは闇に抑え込まれている。
少し動いただけでも闇はクラフィティーを無へと飲み込むのであろう。
「あんたの狙いは解ってたから泳がせてみたんだよね。
あんたは扉のことを知っていた。俺様がこの世界にとって驚異になることをアンタは分かっていて、それに対抗しうる者を育てなければならなかった。
それがあのカスなんだろ?ご丁寧に外のからの干渉ができない幻術空間にあいつを隔離して扉を開かせようとしているんだろ。その為の時間は自らの命を捨ててまでこのオレ様と戦うことで作ろうとしていた・・・」
ソフィアはゆっくりと人差し指・中指・薬指を立てる。
「3。これなんだと思う?」
蠢く闇はいつの間にかクラフィティーの全身を包み込み、彼の目以外を全て覆ってしまっていた。
「3秒。あんたが”俺様の幻術空間に引きずり込まれてから、現実世界で経った時間”だよ」
「・・・・なっ!?」