聖霊の宴
『……ク』
声が響いていた。
どこに当たって跳ね返った反響なのかは分からない。
『……ルク』
ただ1つ言えることは、此処もこの声も安心する。
『シルク?シルク!』
目を開けると視界がぼやけていた。
目の前で優しい表情をした青年がシルクを見下ろしていた。
「君は……ミカエル?」
純白の翼。
煌めく天使の輪。
「ここは?クラフィティー伯爵は?」
身体を越こし、シルクは辺りを見渡す。
しかし、そこにあったのはただ純白の空間。
温かな光を鼓動させる不思議な場所だった。
『彼は……クラフィティーはもう居ません』
ミカエルはシルクが気を失っている間にこの決断をしていた。
全てをシルクに打ち明けることを。
例えそれがシルクにとって自らの死よりも耐え難い事実であったとしても。
『あなたはこれより世界を救うために"ある扉"を開くことになります』
淡々と喋るミカエル、シルクは話の途中で声をあげた。
「ちょっと待ってミカエル!伯爵がもう居ないってどういうこと!?」
錯乱し始めているシルクをよそにミカエルの気持ちは揺るがない。
『クラフィティーは死にました。
世界を、あなたを救うために、そしてあなたを導くために自らの命を絶ったのです』
「意味が分からない!」
シルクは手を振り上げる。
真っ白の空間に落ち着いたミカエルの声とシルクの怒鳴り声が交互に響き渡る。
『一からの説明が本当に必要ですか?』
ミカエルは今までに見たことがないような瞳をしていた。
シルクは口を閉ざし、目を伏せた。
『今から20分。あなたに猶予を差し上げます。
覚悟を……』
そうしてミカエルは口をつぐんだ。
真っ白の空間に静寂が訪れ、長い時が流れた。