聖霊の宴
リコの表情が曇り、闇は一層勢いを増しながらサスケもマリアも飲み込もうとしていた。
リコの背後から沸き上がる闇は悉く前方に突き進み、リコの意識も完全に前を向いていた。
焦りは、不可思議なほど冷静に取り去ることができた。
後はリコに確実に命中する距離まで魔力を完全に消し去り、そこへ到達した刹那に全魔力を注ぎ込むという作業を遂行するのみであった。
リコの闇がサスケやマリアを飲み込もうと顎を開いても焦燥はなかった。
ただ希望の光を打ち放つが為のただひとつの道。
リコの意識は完全に前方に残したまま、グレイシアはその距離まで到達した。
「打ち払え!『破壊神の七夢』」
膨大な魔力が練り上げられながら放たれた神々しい光が、無防備なリコの背後へと迫る。
リコが背後のグレイシアに気づくまでの僅かな時間にも、リコの危機を察知した闇が自動的にリコの背後へと集合していた。
影すらも消え去る強烈な閃光が迫るなかでリコはようやく意識を背後に向ける。
しかし、その時にはすでに回避は不可能となっていた。
想定外の危機に、本来ならば自己防衛に残しておくはずの闇までが、サスケとマリアを殲滅する為に遣われていた。
故に、今のリコにはグレイシアの魔力を滅殺する為の闇は残っていなかった。
「貴様らぁぁぁあっ!!」
鬼の様な形相でグレイシアに手を伸ばすリコ。
「哀れな娘。
せめて苦しまぬ様にその呪われた魔力ごと消え失せなさい」
閃光が闇もろともリコを飲み込む。
闇は断末魔をあげるかのように不気味に蠢きながら消えていく。
そして長い夜が明ける。