聖霊の宴
「やぁ虫けら共」
四人の目の前に現れた青年。
その姿は変わっていたがシルクはその正体にすぐにきづく。
髪は黒くなり、血色が良くなり、翼はなくなっている。
しかしその憎悪に満ち溢れた瞳の濁りは消えず、世界を"それ"に飲み込ませていることを心のそこから楽しんでいるのが見てとれた。
「精霊ではない。まさかルシフェル・・・実体か!?」
シルクは自らの言葉であることに気づく。
そしてルシフェルの周りに目を凝らす。
「いない・・・いない。
いない!!」
「シルク?何を探しているの?」
心配そうなマリアの声も今のシルクにとっては耳障りにも聞こえてしまいそうだった。
シルクの返事は語調が強い。
「リコがいないんだよ!!」
どこを見渡してもその姿はなかった。
あるのは闇に犯された傷跡が色濃く残る砂礫の大地と、うすら笑いを浮かべているルシフェルの姿。
「・・・・・
お前が・・・お前がリコを!!」
一瞬にしてルシフェルの前に移動したシルク。
左手に魔力が集められ、光の矢が放たれようとした時、ルシフェルはおもむろに自らのローブをはだけさせた。
顕になる上半身に見えた物はシルクの繊維を喪失させるのに十分すぎるものであった。
「・・・リコ?」
全身から力が抜けてシルクは膝から地面に座り込む。
冷や汗が滴り落ち、虚ろになった瞳が写すのは、ルシフェルの胸の中央に安らかに眠る様な顔で浮かび上がっているリコの姿であった。
「貴様らは一つ勘違いをしているのではないか?
"それ"は確かに悉くを意識や存在という概念すらからも消し去るが、この娘が世界に撒き散らした障気は"それ"に飲み込まれた訳ではない」
ルシフェルがそう言いながらゆったりと手を上げた。
「・・・馬鹿な」
「何よこれ・・・」
ルシフェルの纏っている魔力は気味が悪いほどに静かなのに、その手の先に集められている闇は冥府の魔物すらもを侵食してしまうほどの濃純な闇であった。
「世界に放たれた闇は、この女の魂を媒介として人型に圧縮され俺様をこの世界に具象化している。
故に今の俺様は一時でも世界を覆い尽くした莫大な闇を自在に使役できるものと思っていい。さて・・・俺様にあだなす貴様らは間違いなくこの世界にとっては正義なのであろう。
自ずと戦いは始まるわけだが・・・誰からこの闇の藻屑となる?」