聖霊の宴


言葉にせずとも分かった。

ルシフェルの放つ魔力は自らの持ついかなる力を使っても相殺はおろか、恐らくは敵として認識されることもないであろうこと。

「せめてもの慈悲だ。

四人まとめて消えろ」

ボール大の大きさに圧縮されていた闇がルシフェルの声に呼応して膨張していく。

放たれた闇はゆっくりと回転しながら体積を増やし、シルク達を悠々と飲み込むだけの大きさで直撃しようとしていた。

そして闇が大地ごとシルク達を飲み込もうとした時だった。

純白の羽が舞い躍り、それを視認した瞬間に目の前は強烈な閃光に包まれた。

「『裁きの雷』!!」

光と闇がせめぎあう。

その混沌の中でシルクは確かに見た。

「……サモンさん」

サモンは魔力を振り絞りながら首だけシルクに向ける。

「何をしているシルク!

お前は一時の感情に流されてリコを……私の愛してやまぬ娘を世界の反逆者にするつもりか!?」

二つの扉を開いたシルクには全て理解できていた。

リコが辿る避けようのない顛末も、自分が今何をすべきなのかも。

それを止めていたのは他ならぬシルクがシルク足る優しさであった。

「お前を生ぬるい等とはいわん。

しかし、今は世界の為に、いや。

リコの為にルシフェルごとあの子を消さなければならない!!」

シルクは気付きそして理解する。

サモンの表情は変わらなかったが目が充血していた。

堪えていたのだ。

或いは哀しみが感情の許容量を越え、涙を流すことすらできないのか。

いずれにせよ、サモンがすでに確固たる覚悟の元にこの場に立っているのだと言うことをシルクは理解した。

「ミカエル……」

『ええ、シルク』

シルクは立ち上がる。

「僕はリコを殺す、殺すんだ」

『いいえ、シルク』

研ぎ澄まされた魔力が羽衣として輝く。

『救うのです彼女を、世界を、そして道を踏み外してしまったあの男を』





< 374 / 406 >

この作品をシェア

pagetop