聖霊の宴
アニスはとぼとぼと村の通りを歩いていく。
泥だらけになったズボンが視界の端で揺れてなんだか切なくなった。
村の家屋は木製の古い作りのものばかり。
中には倒壊したままの家屋もあったが、そこの敷地の前には石碑が置かれ「終焉の宴から我々は再び立ちあがった」と書かれている。
アニスは一度そのことを近所の大人に訪ねたことがあった。
あの倒壊した家は「イシズエ(礎)」なのだと。
まだ少年はその言葉の意味を理解できずにいる。
「あれ、アニスどうしたの?転んだの?」
金髪の少女がアニスの前に現れた。
途端にアニスは顔を伏せる。
「何があったの?
またゴルドたちに何かされたんじゃないの!?ねえ、そうなんでしょ?」
アニスの心配をするこの少女の名前はメリル。
歳はアニスと同じだが、しかっりとした性格と強い瞳から受ける印象も相まってアニスよりもお姉さんに見える。
フリル付きのワンピースは可愛らしい。
「なんでもないよ!!
メリルはいつもいつも煩いんだよ!放っておいてよ!!」
心無い言葉を無防備な少女に向かって投げつけてアニスは走りさって行った。
「アニス・・・」
アニスは幼い。
それ故に先の大人の言葉の意味を理解するのにはまだまだ時間がかかるのであろう。
そして、何処かで胸を痛めている少女が自分に抱く淡い気持ちに気づくのも、同じくらい先の話になる。
立ちすくんだメリルに近寄る一つの影。
何気なく振り返ったメリルが見たのはボロボロのマントに身を包んだ大柄な見知らぬ男であった。
「・・・れ」
ぼそぼそ喋る男の声は聞き取りづらい。
メリルは必死に言葉を聞き取ろうとした。
「・・ね・を・・れ」
「・・ねを・くれ」
そしてようやく聞き取った言葉にメリルの顔が青ざめていった。
「返して欲しければ金をくれ」
逃げ出そうとした瞬間にメリルは背中に強烈な痛みを感じて気を失ってしまう。
軽々と抱え上げたメリルを無造作に羽織っていたローブで包み隠していく。
そしてその巨大な体の隆起した筋肉を見せつける。
男は懐から1枚の紙を取り出して地面に置いた。
「さて収穫はでかいかな?」
メリルを抱えた男が堂々と村を横切って去っていく。
2ほど村民がその男の横を通り過ぎたが、大きな荷物と見慣れぬ顔に、旅人が食糧や薬草を買いだめして行ったくらいにしか思っていなかったのだ。
その時、アニスは家屋の裏からメリルが連れ去られる一部始終を目撃して涙を流しながらうずくまっていた。
アニスが自分の行いを悔いている間にもメリルは男の隠れ家である洞窟に運ばれていた。