聖霊の宴
「親分!!」
林をかき分けるゴルドの後ろからラックの声がした。
「どした!?」
ゴルドが振り返るとラックは冷や汗をかいて、少し震えていた。
その両手はズボンの真ん中をぎゅっと押さえている。
「ラックおまえまさか・・・」
「・・・はい!」
「しょんべん我慢してるな?」
がたがた震えながらラックは頷いた。
「バカモノ!!こういう風になるから秘密基地に来る前にはトイレをしっかりと済ませるようにいつもいつも言ってただろうが!!
我らの鉄の掟はいつ何時も忘れるな!!復唱!!」
「は、はい!!」
博士は思うのだった。
小便我慢して冷や汗かいてなおもゴルドの指示なしにはトイレに行かないラックはバカなのではと。
「早寝早起き!早食いダメよ!!」
「は、早寝早起き・・・早食いダメよ!」
そしてそんな哀れな仲間を目の前にどうでも良い(本人にはそんなこと口が裂けても言えないけど)お約束を復唱させるゴルドはバカなのではと。
「秘密基地にはトイレを済ませてから集合!おやつは200ジェインまで!皆がいるからパーティ開け!!」
「ひ、秘密基地にはトイレを済ませて・・・おやつは皆でパーティ開け!」
「復唱できてないぞバカモノが!!ええい、もういい!
さっさと物陰で用をたしてこい!!我慢は体に悪いからな」
「はいいい・・・」
そして何よりも、こんなバカに囲まれているこの空間が好きな自分も取り返しのつかない変人なのだろうと。
ラックは罵声と体を労わる言葉を背中に受けながら少し進んだ大きな木の影に隠れて行った。
その直後にゴルドの背中に何かが落下した。
ズボンのチャックを降ろして用を足し始めた時に、目の前の藪の向こう側に今までに見たことのないほら穴があることに気がついた。
溜まっていたものを出し終えて、大きく息をついたラック。
しばらくの間、その藪の向こうを覗いていると大柄な男が大きな荷物を抱えてそのほら穴に入っていくのが見えた。
「なんだあの怪しい洞窟は、これは今こそ我ら聖霊の使者の出番なのでは!早くゴル・・・じゃなかった隊長に伝えなければ」
振り返ったラック。
その視線の先ではゴルドと博士が待っているはずであった。
「あれ?」
しかしそこに二人の姿はなかった。