聖霊の宴
アニスが故意の奇跡によって谷越えを果たした頃、ゴルドとラックは洞穴の前まで到着していた。
二人は息を潜めている。
「ゴルド、ホントにアニスは来れるかな?」
「…………」
「今からでも手を貸してあげても」
ラックの言葉を遮るようにゴルドはラックを見つめた。
ラックはまるで怒られた子どもの様に首を下にうなだれる。
「……信じろ」
聞こえてきた言葉は震えていて、ラックは顔を上げた。
声だけが震えていたのではない。
ゴルドの身体が小刻みに震えていた。
「仲間を信じろ。あいつは来る。
そしてメリルもきっと俺たちが来るのを信じている」
ラックはようやく気付いた。
ゴルドの勇ましい言葉は自分達を叱咤したり励ましたりするために言っていたのではないこと。
それらはそのままゴルド自身に向かって言われていたのだと言うこと。
本当はゴルドが一番気が弱くて、不安でしかたがないのだと言うこと。
「ゴルド…………いや、そうですね隊長」
そんな気持ちをいつでもねじ伏せる勇気があるから自分たちは、多少の我儘や横柄さがあっても隊長に着いていくのだということを。
「いつまでもここで留まるわけにはいかない。
アニスと博士も直に来る。ここがその洞穴だということを知らせるためにこれを置いていく」
ゴルドはラックの鞄の中から取り出した物をそっと洞穴の入り口に置いた。
「行くぞ」
「はい、隊長!」
洞穴の中は静かで、それが妙な不安をあおる。
二人は唾をごくりと飲み込んで、ゆっくりと洞穴の中へと進んでいく。