聖霊の宴
洞穴の中はジメジメしていて涼しかった。

それなのに二人の顎先からはポタポタと汗が滴っている。

「…………くっ」

この先に待ち受けているのかもしれない危険。

不安は緊張を生み出し二人は冷や汗にも似た心地よくない発汗をしている。

音がならないよう摺り足で進んでいる為に、洞穴の入り口からほとんど進んでいないが二人の息が切れ始めている。

アニスのことを思って振り返ったラックがそのことにようやく気づくが、ゴルドに伝えることはなかった。

友だちを信じてラックは歩を進めていく。

入り口から差し込む光が見えなくなってきた頃。

二人の目の前には別れ道が現れた。

ゴルドとラックは顔を見つめる。

「……よし」

ゴルドは自分を指差してから右側の通路を示し、ラックを指差してから左側の通路を示した。

つまり二手に分かれての探索が好ましいと隊長が判断したということであった。

ラックは力強く頷いて左側の通路へと進んでいく。

その迷いのない表情を見ていたゴルドが嬉しそうに笑って、右側の通路へと入っていく。

恐らく昨日までの、いや。

さっきでのラックだったら一緒の方が良いと自分の身可愛さに抗議していたかもしれない。

しかしもうラックは理解している。

友を信じることとは、友が信じる自分をも信じること。

信じられない自分が選んだ人間を信用できるはずもない。言語化はまだ難しい歳だけれども"聖霊の使者"達はそれを心で理解していた。

ラックとゴルドが二手に別れた頃、アニスと博士が合流し洞穴の前へとたどり着いていた。




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