聖霊の宴
四人が洞穴の中へと入って行った時、メリルは薄暗い松明の明りの下でパンを片手に座っていた。

木製の椅子にメリルの体を茶色い縄で縛りつけている。

「・・・・」

男は洞窟の岩肌に背を預けて地面に腰掛けて黙ってメリルを見つめていた。

「あの・・・」

メリルの問いかけに返事はない。

「ねえ、聞こえてるでしょ?」

大きな声で尋ねるが男はただじっと見つめているだけで口を開かない。

「トイレに行きたいの。だからこの縄を解いて」

男はようやく動きを見せた。

しかしそれはメリルの意図していたものとはかけ離れていた。

「喧しい人質だな・・・

ション便ならそこで垂れろ。おまえはただの交渉の道具だ。道具は言葉を勝手に発するな」

メリルは男の冷徹な表情に震えがはしった。

「そのパンはお前の最後の晩餐だ。身代金が手に入ればおまえは用済み、速やかに処分して俺はまた身を潜める。よって最後に腹を満たして死にたいなら早く口にしておくことを薦める。

身代金が届くか、俺の気が変わって処分を早めるかは何時になるか分からないからな」

メリルはもう男の声など聞こえていなかったが、声を出さずに泣いていた。

震える頬を伝って涙が次々に零れ落ちていく。

男はメリルの涙を見て興醒めでもしたのかまたさっきまでの位置にもどり腰掛けた。

今度はメリルを見つめてはいない。

ただじっと今いる空間へと繋がる唯一の道を見つめて、これから訪れる珍客の姿を見つめるかのようであった。

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