聖霊の宴

松明の明りを消したアニスは木の棒を持ってじりじりとウルガーに近付いていく。

「クソ餓鬼が!!全員今すぐ殺してやる!!」

ゴルドは叫びながら所構わず腕を振り回すウルガーの横を通過してラックの救出に向かった。

「おら!出てこいよ!!ああっ!」

暴れる大男、間違えて接触すれば弾き飛ばされて怪我は必至。

もし当たり所が悪ければ命を落とすことだってありうる。

アニスとゴルドは慎重に作戦を遂行しようとしていた。

ゴルドが忍び足でラックの元にたどりつく。

ゴルドは優しくラックの肩を叩き、助けに来たことを伝える。

ラックはすぐにそれを理解した。

そしてゴルドがラックを起して連れて行こうとした時であった。

ゴルドは何故か足が進まないことに気づく。

「ゴルド!ダメだゴルド!」

ラックが小さくそう言った。

ゴルドが事態を把握できていない中でウルガーが笑いだした。

「はははは!残念だったな餓鬼ども」

先ほどまでの激昂はどこへ行ったのか、ウルガーは見下すような口調でいた。

「おまえたちが仲間を救出に来たのは分かったからな、こっちの餓鬼も助けに来ることはわかっていた」

ラックは自分の巻かれた縄の先がウルガーの集中にあることに気付いたのだった。

ウルガーはゴルドの首を後ろから掴んで地面に押し付けた。

「うわあああ!」

顔面を強打してゴルドが叫んだ。

「ほんと餓鬼ってのは馬鹿だな」

アニスは視界の先での状況を察して身動きが取れなくなっていた。

一番の力持ちのゴルドが軽々と地面にたたきつけられる。

単純な力の差は歴然であった。

今ここでアニスが出て行っても、ウルガーに押さえつけられているラックとゴルドを助け出すことは不可能であった。

しかしこのままじっとしていてもいつかはウルガーの視界が暗闇に慣れて見つかれば逃げることもできない。

「くそったれ・・・俺の仲間を離しやがれ」

大男に押さえつけながらもゴルドは必死で叫んだ。

それはウルガーの癇に障るだけの行為で、押さえつけている手により力が加わりゴルドは息をするのも苦しくなる。

「勇者様気取りか餓鬼。あ?

てめえらが何しようと大人に勝てるわけがねえだろうが。餓鬼は餓鬼らしく大人に飼いならされてたら良いんだよ、馬鹿が」

ゴルドは悔しさに震えた。

ラックはまた泣いている。

アニスは持っている棒を手から血がにじむほどに強く握りしめていた。

「おい、お前らもさっさとでてきたらどうだ?

どうせ死ぬならお友達と仲良死にたいだろう?」

男の言葉に全員が唇をかみしめた。

その時、ようやくメリルを縛っていた縄が切れた。

博士はゴーグルを装着するとすぐにリュックからパチンコを取り出した。

右ポケットから取り出したビーズを弾丸にしてパチンコを構える。

限界まで弾いたゴムが最速でビーズを放つ。

「っつ!!」

放たれたビースはウルガーの頬に的中した。

方向を確認した博士は最後に押入れから持ってきた液体の入った瓶をあけてそれに一度ビーズを漬けてからまた放つ。

次々にヒットしていくビーズ。

「調子に乗んな!まずはこの餓鬼から殺してやる!!」

ゴルドの頭を殴打する為に振りあげられた拳。

アニスは咄嗟に飛びだしていた。

持っていた棒を振りあげて思い切り振りおろす。

頭頂部をずれてしまってさほどのダメージもないが、男は急に鼻が曲がるほどの匂いを感じてたじろぐ。

「なんだこれは、くせえ!

なにしやがんだ!!」

簡単に降り飛ばされたアニス。

ウルガーの怒りは絶頂であった。

「本当に舐め腐りやがって餓鬼どもが、すぐに殺してやるよ!!」

万策尽きた。

リュックの中にはもう何もなく、アニスもゴルドも体を動かすこともままならない。

メリルとラックは恐怖に震えているし、作戦失敗を察した博士は俯いてしまっていた。

もはや5人に助かる術はなくなってしまった。

「選ばれし者は勇者になれるかもしれんが貴様らには無理だったようだなあ。

これも大人を舐めてかかった自業自得だ。あの世で反省会でもしな」

ウルガーは足を上げて、躊躇なく倒れるゴルドの頭めがけて振り下ろす。

頭蓋骨を砕く勢いで振り下ろされた足が、ゴルドの人生に強制的な幕引きをしようとした瞬間。

「光撃!!」

どこからともなく聞こえた声。

その瞬間、空間が強烈な光に包まれた--



















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