聖霊の宴

その時、アニスは確かに見た。

光り輝く羽衣を身に纏う男の姿を。

その隣でほほ笑む天使の姿を。

「あれは・・・まさか」

アニスは確信した。

「なんだ貴様は!?」

ウルガーの叫びに謎の男は低い声で答える。

「これから捕縛される犯罪者に名乗る名前は生憎と持ち合わせてはいないんでな。

おまえがこの勇敢な子どもたちに吐いた言葉をそっくりそのままおまえに返すよ。暗い牢獄で反省会でもしてな----『光縛』!!」

左手に巻きついた光が一瞬にしてウルガーを捕らえた。

光速の攻撃に回避などできるわけでもなく、ウルガーは身動きが取れなくなる。

光の布はどれだけ暴れようとも引き裂くことはできなかった。

謎の男が踵を返そうとした時、アニスは思わず叫んでいた。

「あの・・・あなたはシルク・スカーレットですか?」

少し間が空いて、男は首を横に振った。

そして小さな声で言う。

「もうじき宴が始まるかもしれん。覚悟しておくと良い小さな勇者たちよ。

君たちには彼の残したこの宝具をあげよう、いずれ役に立つ時が来るはずだ」

男がパチンと指をならすと5つの光が5人の手元に現れた。

光を手にすると、手の中で光が治まり、その中から指輪が現れた。

「これは・・・あれ?いない」

いつの間にか謎の男は消えていた。

そいてゴルドが叫ぶ。

「おい、犯人もいないぞ!!」

なんと謎の男と一緒にウルガーの姿も消えてしまっていたのだった。

「メリルとラックは無事か?」

「僕は大丈夫」

「私もよ。みんなありがとう!」

助かったことに安どしているとゴルドが気づく。

「待てよ・・・あの金貨はどうなったんだ?」

「そういえば!」

5人は急いで金貨のあった反対の道を確認しにいくが、確かに金貨があったはずの場所には金貨どころか袋も何も残ってはいなかった。

洞穴から出るとなんともう日が暮れる寸前になっていた。

5人は顔を見合わせる。

「ぷっ・・・」

「ふふふ」

「ははははは」

ボロボロの顔。

泥だらけの服。

泣いていた線がくっきりと頬に残っている。

「これ絶対にお母さんに怒られるよね」

「誘拐犯と戦った!なんて言っても絶対信じてもらえないもんな・・・」

口ではこれからのことを心配しているようなことを言ってはいるが、5人の口角は上がっていた。

「じゃあ今日のことは・・・」

「僕たちだけの秘密!だね」

にっと笑って5人は帰路に着いた。

それぞれの指にはシルバーに輝く指輪が光っていた。

この日家に着いて案の定皆母親に怒られた。

その怖さといったら誘拐犯に勝るとも劣らないものであったが、そんなのはもう皆へっちゃらになっていた。

翌々日の王都からの電報でウルガー・サイロフォンが王立監獄に収容され、身代金の金貨が遺族達の元へ返還されたことが分かった。

結局のところ謎の男の正体がシルク・スカーレットであったのか、または別人であったのかは分からずじまいで、ウルガーは縛られた状態で身代金と共に刑務部隊の基地の前で気を失っていたそうだ。


さて、あのシルバーの指輪はというと。

聖霊の使者達の証として秘密基地に入るときには絶対に身につけなければならないものになった。

幼い五人にはその指輪の真価などわかるはずもなかった。

その指輪がこれから起ころうとしている世界をも巻き込む陰謀を打ち砕くための唯一の鍵だとも知らずに。













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