満月

星の泣く夜

けだるい陽射しの中、私はただぼんやりとベンチに座っていた。

公園内に作られた西洋庭園風の並木道。噴水ではカモが水と戯れている。
夕日に照らされてキラキラと輝く涙が憎い。



約束の時間になっても、彼は現れなかった。

やっぱりうまくいかないものだな。もともとバーチャルだったし、仕方がないよね。

そんな風に、無理に自分を納得させる。

空想とはいえ、今まであった温もりが壊れたことが、淋しかった。

群青色とオレンジのグラデーション。
愛の象徴金星は、誰のために輝いているのだろうか。


ぼんやりとそんなことを考えながら、ただ、ただ闇にのまれていく空を見ていた。私がその闇にのまれたかった。手元にあった様々のものが輝きを失っていくのがまざまざと感じられた。


世界って、気の持ちようでこんなに見え方が変わるんだな。

奇妙な冷静さが沸き起こる。

春だというのに、日が落ちるとまるで冬のようだ。私はストールを巻き直した。慣れないスカートに、慣れないブーツ。
普段ジーンズにスニーカーという服装の私には、ちょっと気恥ずかしい。

私が分不相応な服装に手を延ばしたのも、自分らしくない行動をとったのも、恋の魔力のせいだろう。恋の魔力に完敗した自分が、なんとなく笑えた。やっぱり、私に「恋」は似合わないんだ。



気付けば、三日月が輝いている。細く鋭く輝く月は、甘い痛みをよびおこす。

私は軽く目を閉じた。
星の泣く声が聞こえる……
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