【短編】クリス王子とセシル姫
結局マーカスに到着するまで、ろくに会話もできなかった。
セシルはずっと窓の外を見ていたし、”放っておいて”と言われたら大人しくしているしかない。

浮上しかけたクリスの心はまたしぼんでいってしまった。



やがて馬車はエンバレム公爵邸の敷地に辿り着いた。
重厚な門をくぐり、煉瓦を敷き詰めた道を進む。
その道の両側に広がる庭園は、手入れが行き届き、
美しい花達が咲き乱れていた。

窓から外を見ていたセシルが「綺麗、、、」と独り言のように呟いた。

そしてやがて大きな屋敷が目の前に現れる。
赤い屋根と白い壁で、建物もこまめに塗りなおされているのかとても綺麗だ。
目の前には大きな噴水が造られていた。

その噴水の側でクリス達の馬車はゆっくりと止まった。



「ようこそ、おいで下さいました」

そう言って2人を迎えたのはクリスの従兄弟であり、エンバレム公爵家の公子アーサーだった。
ブラウンの髪に同じ色の瞳で、日に焼けた肌が似合う精悍な顔立ちをしている。
従兄弟ではあっても、クリスとは雰囲気が違っていた。

アーサーはクリスを見ると、「久し振りだな」と言ってニッと笑った。

「うん。元気?」

「相変わらずだよ。父もね」

クリスとアーサーはかつて一緒に城で暮らしていたこともあり、昔はよく一緒に遊んだり稽古をしたりしたものだった。
従兄弟だけれど兄弟のような間柄だった。

クリスより2歳年上のアーサーは体を動かすのが好きで、剣も馬もクリスより上手かった。
今もそうなのだろう。健康的な雰囲気は変わっていない。

< 14 / 42 >

この作品をシェア

pagetop