【短編】クリス王子とセシル姫
「いい女だなぁ」
セシルが他の貴族に踊りに誘われて去っていくのを見送りながら、アーサーが呟いた。
そう言うと思ったと思いながら、クリスは何も応えずお酒を飲んだ。
「婚儀で見た時は美人だけど大人しい感じだったから、世間知らずのお姫様を想像してたんだけどなぁ」
「―――俺の妃だぞ!」
思わずそんなことを言うとアーサーは「知ってるよ」と笑った。
「婚儀の時は仏頂面だったくせに、
今はそんなこと言うようになったんだな」
「、、、うるさいな」
「仲良くやってんだ」
「当たり前だろ」
「よかったじゃん」
アーサーはそう言って微笑んだ。
”当たり前だろ”
自分で言っておきながら、本当はその言葉に確たる自信は持てていない。
クリスは遠くでダンスの相手をするセシルを目で追った。
お腹の出た中年の男と笑顔で話をしながら踊っている。
遠巻きに見るセシルは、やっぱり他の誰より綺麗だった。
必死に着飾っている貴族の令嬢の誰と比べても、一番、綺麗だった。