【短編】クリス王子とセシル姫
こんなに拒否されたのは初めてだった。
自分だけが盛り上がっているという状況に、なんだか悲しくなる。

それを振り切るように、クリスは「あ、そう!」と言ってセシルから離れた。

彼女に背を向け、寝台を出る。

振り返ってセシルを見ると、呆気にとられたようにクリスを見ていた。

「部屋に戻る!」

そんな妃に、クリスは投げつけるように言った。

「、、、そう」

少しも動揺せずにセシルが応える。

そんな態度がなおさらクリスの頭を熱くした。

「もう来ない!
セシルが来て欲しいって言うまで、
もう俺ここには来ないからな!」

気がついたら、そう宣言していたのだった。

目を丸くして自分を見るセシルから目を逸らして部屋を出て行きながら、
クリスは早速その言葉を後悔していた。

でも後にも退けなかった。

”セシルが来て欲しいって言うまで”

そんな日は永遠に来ないかもしれないのに―――。
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