【ND第2回】雨
「ありがとう」
小さな傘に2人で入ると案外近くて少し恥ずかしい。
唯一、赤い傘だったことが救いだ。
赤くなった顔を誤魔化せる。
あたしは「いいえ」と言って彼の隣に腰降ろした。
チラリと彼を見ると、やはり悲しそうに空を見上げている。
端正な顔立ちが、そんな表情をするのだからセクシーだ。
「今日は晴れだと言っていたのに」
ポツリと言った彼。
「いつもこうなんだ、いいところで雨が降る」
この季節だから仕方ないけどね、と言った彼に彼が雨男なんだと思った。
「そうだね、今日は晴天だって聞いていたのに運がない」
あたしは、特に深い意味もなくそう言った。
でも、彼はどう受け止めたのだろうか。
俯きながら
「俺は歌手になれないのかな」
って、誰もそんなこと言ってないじゃない。
「あたしにはそんなのわからないけど。でもあたしはあなたの曲好きだけどな」
本当にそう思った。
すると、彼は笑顔になってあたしも自然と笑っていた。
そのまま、2人で空を見上げてたまに口を開いては他愛もない話をした。
いつの間にか、辺りは真っ暗になっていて雨もすっかりあがった。
「ありがとう、もも」
「いいえ、由貴(ゆき)」
名前で呼ぶなかにさえなっていた。
まぁ、何時間も2人っきりでいたのだから普通のことだろう。
なんて自分に言い訳をして、彼とさよならをする。
もう、会うこともないだろう。
そう考えて、寂しいと思ってしまっている自分がいる。