半熟cherry
ケータイを手に取り。
サブディスプレイを見ると。
“郁”
通話ボタンを押すのはちょっとイヤだったケド。
出なきゃなに言われるかわからない。
『…はい』
「あ、俺。郁」
初めてかかってきた郁からの電話。
機械越しに聞く郁の声は。
直で聞くより大人びて聞こえた。
「明日、9時に駅でいい?」
……忘れてなかったのか……。
『…どこ行くのよ…』
「内緒」
『教えてよ』
「行けばわかる」
……ケチ男め……。
きっと電話の向こうでも。
真っ黒い笑顔を浮かべているんだろう。
「…っと、じゃ俺バイト中だから。
明日は遅刻厳禁でよろしく」
言うことだけ言って。
伝えることだけ伝えて。
まさに用件のみの電話。
バイト中だからって……。
だったらメールでもよかったのに。
なんだかおかしくて笑ってしまった。