半熟cherry

『……る』



右手の拳を握りしめて。

つぶやいた。



「なに?どした…」

『…帰るって言ったの!!』



朝の改札口の前。

そんな声じゃ郁に届かないのはわかってる。

だから今度は。

周りに聞こえるくらい大きな声で言ってやった。



私の声に歩いている人が振り向く。



「…今から行くんだケド」

『どこに行くのか知らないケド、1人で行きなよ!!』



理由も言わず。

あからさまに人を否定する態度は大嫌い。

いくら勉強できたって。

人の痛みがわからないなんて。

偉くもなんともないわ!!



「…何言って…」

『おかしいならおかしいってはっきり言えばいいじゃない!!』



勢い任せに発した言葉が。

郁に火を点けるコトになるなんて。

…知る良しもなく…。



 

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