半熟cherry

「……ごめん…」



郁は掴んでいた腕を離して。

服の中からも手を出すと。



私の目尻を伝う涙を。

人差し指で掬った。



「…泣かせるつもりなんてなかった…」



郁は静かにそう言って。

私を抱き起こすと。

そのまま自身の胸に引き寄せた。





さっきまで怖かった郁が。

……今は怖いと感じなかった。



大事な物に触れるかのように優しく抱きしめられた。



「……茜に“生徒、生徒”って言われて。
すげぇイラついてた」



抱きしめられた胸からは。

ドクンドクンと鼓動を感じる。



「…“茜の生徒”になる前に出会ってるのに。
“生徒”で括られてるって」



そこまで言って。

郁は私の体から腕を離した。

そして俯くと。





「…茜が欲しいんだよ」





そうつぶやいて。

目にかかる前髪をクシャっと握った。



 

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