半熟cherry
近づいてくる逢沢クンの影に。
ギュッと目を瞑った瞬間。
フウッ。
温かい空気が。
顔を撫でた。
『…?!』
「…この前先に帰った“お仕置き”デス」
ニッコリ。
逢沢クンは微笑んだ。
「それから…これ、返します」
またポケットに手を突っ込むと。
キレイに折り畳まれた1万円札を机に置いた。
「俺、相手にホテル代出させるほど堕ちてませんから」
そう言ってバッグを手に教官室の出口に向かって歩きだした。
私は。
力が抜けて床にへたりこんだ。
「あ、そーだ」
教官室を出ようとした逢沢クンが振り向く。
「逢沢クン、じゃなくて。俺は“郁”デス。
今後“郁”って呼ばなかったら…。
……どうなるか、わかってマスよね?」
逢沢クン…いや。
“郁”の真っ黒い笑顔が。
私の明るい明日を奪っていった。