俺様先生と秘密の授業【完全版】
「俊介の拳を受けた時、いやにキレイな受け身を取ってたから、何かやってるなと思ってたけどな。
 だから、お前は……クラスメートにイジメられても、怒らず。
 出来るはずの反撃もしないで、教室のスミで小さくなってたのか……」

 しみじみと言った早瀬倉先生の声には、岸君は答えなかった。

 カラダの傷なのか。

 それとも。

 ココロの方なのか。

 岸君は痛みをこらえるように、顔を歪ませると。

 黙って、上掛けを引き上げて、アタマから被ってしまった。

 岸君が、カバンを抱きしめて震えていたのは。

 クラスメートが怖かったんじゃなく……

 怒れば簡単にヒトを傷つけかねない、自分が怖かったんだ。

「……岸君……」

 あたし、岸君にかけてあげられる言葉が見つからなくて。

 ただ、その名前だけ、呼んだ。

 でも、掛け物の下の岸君は、応えてくれなくて。

 様子を見ていた早瀬倉先生は、ため息をついて言った。

「岸の事は、俺が見てるから。
 愛莉と吉住は、教室に帰れ」





 
< 176 / 362 >

この作品をシェア

pagetop