俺様先生と秘密の授業【完全版】
 あたし。

 思わず、困った顔でもしてしまったらしい。

 けれども、兄貴は笑って心配ないよ、って言ってくれた。

「岸は、直斗の家にでも、居候するつもりなのかもしれないね?
 でも、もし本当に住む場所に困ったら、僕の所へおいでって言っといて?」

「……え?」

 思ってもみなかった兄貴の申し出に、あたしは、聞き返した。

「良いの?
 だって、岸君、今まで天竜組のヒトで……敵(ライバル)なのに?
 色々心配だから、吉住さんを、あたしの所によこしたぐらいなのに……」

「中途半端な敵なら怖いけれど。
 味方になってくれるなら、安心だろ?
 仲好くなっても天竜組や、藤沢組の本拠地は教えてくれないだろうけど、このさい、まぁいいや」

 言って兄貴は、笑う。

「吉住と同じ、ワンルームマンション良ければ、まだ空きがあるし。
 経歴と単車の運転技術からして。
 ついでに、愛莉ちゃんのお気に入りってことを考えると。
 いきなりトップ4、は無理でも。
 そのすぐ下ぐらいの地位を持って、沈黙の狼に迎え入れて良いぐらいだよ?」

「でも、岸君は。
 主にヒトを傷つけることが嫌で、天竜組を辞めるんじゃないのかな?」

 優しい。

 優しい、岸君。

 ただ走っているだけ、なら良いけれど。

 新たに入った先で、ケンカにでも巻き込まれたら、すごく、かわいそうだ。
 

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